第5回 SGEPSS分科会 「中間圏・熱圏・電離圏研究会」会合報告

場所: 富山大学 B会場

日時: 平成15年(2003年) 11月1日(土) 12:00〜13:30

出席者:記録なし

議題

1.運営について

SGEPSS講演会における学生賞について現状報告:斎藤昭則(京都大理)

9月のMTI分科会で提案された、学会での学生発表賞を新設することについて、MTIメーリングリストにおけるこれまでの議論の経緯の説明を行った。さらに今回の秋学会において、「大気圏」と「熱圏・電離圏」の2つのセッションで、7名の有志により試験的に学生発表の評価が行われることを報告した。
学会初日の運営委員会において賞の設立が提案され、今回の試験的な評価の結果を2月の運営委員会に提出し、賞の設立に向けての検討材料としてもらうことになった、と高橋幸弘さんより報告があった。 

2.講演

山本 衛(京大RASC) 「科研費特定領域「赤道大気上下結合」活動状況について」

1. 特定領域「赤道大気上下結合(CPEA)」第一次国際観測キャンペーン

赤道大気には、地表近くから高度数百kmにいたる全ての高度域に、強い上下結合を特徴とする波動や変動が存在する。これらはエルニーニョに代表される地球の気候・環境変動に直結する現象であり、赤道インドネシア域で特に顕著である。平成13年度(2001年度)から、赤道大気に関する多くの未解明の問題を明らかにすることを目的として、科研費特定領域研究「赤道大気上下結合(CPEA; Coupling Processes in the Equatorial Atmosphere)」が開始されている。本研究領域では、インドネシア共和国スマトラ島の赤道直下において2001年から運用を続ける赤道大気レーダー(EAR; Equatorial Atmosphere Radar)を中核として、赤道大気を対流圏から超高層大気まで一気に同時に観測することを目指して、観測装置の整備を進めてきた。京大、名大、島根大、都立大をはじめとする参加者の努力により、既に、ライダー、流星レーダー、Xバンド降雨レーダー、大気光イメージャ、RASS観測システム、水蒸気分光計、各種の地上気象観測器など、多くの装置がEARサイトに集積している。本研究領域では、2004年3月から5月にわたる2ヶ月間に、第一次国際観測キャンペーンを予定している。今回の観測キャンペーンは、その前半(主として3月中)には中層から超高層大気をメインターゲットとして各種のレーダーとライダーを中心とした観測が実施される。通信総合研究所は本キャンペーンに連動して、タイ国内の2個所とEARサイトの計3個所にFM-CWレーダーを設置し、磁気的南北半球にまたがるプラズマバブルの同時観測を実施する。後半(4〜5月)においては、気象ドップラーレーダー観測と、マレーシアやシンガポールを含む9個所からのラジオゾンデ打ち上げを中核とする対流圏から中層大気までの観測を予定しいる。本キャンペーン観測は、かつてない多手段・多変量の観測装置を赤道域に集約して実施するものであり、更に多くの参加者を募りたい。なお本キャンペーン観測は、SCOSTEPが来年から開始するCAWSES計画の一環として認められており、実際に米国、インド、ペルー、ブラジル、オーストラリア、台湾のグループから参加したいとの提案を得ている。(本研究領域のホームページは、http://www.kurasc.kyoto-u.ac.jp/cpea)

2. MUレーダー観測強化システムの導入

MUレーダーは、1984年の完成から現在まで、20年近くにわたり年間3,000〜4,000時間の観測を続け、地球大気科学において顕著な成果を挙げて来た。近年の研究から地上から超高層に広がる大規模(マクロ)な地球大気環境は、小規模(ミクロ)な大気現象(乱流・波動等)の集積で定まることが明らかになりつつあり、地球大気動態の根源を解明するには、レーダーによる立体可視化の技術を活用することが重要とされている。今年度、京都大学宙空電波科学研究センターでは、信楽MU観測所に「MUレーダー観測強化システム」を導入する。本システムは、MUレーダーの高性能なレーダー基本性能を更に活用して、大気諸現象の微細な内部構造を立体的イメージング観測を可能とする、MUレーダーに新たに付加されるシステムである。現在設置作業が進められており、平成16年2月末に完成予定である。本システムの導入によって、(1) 受信チャネルが現在の4チャンネルから29チャネルに拡大される。各群のアンテナで観測された受信信号を全て別個のデータとして記録することができるようになり、空間領域干渉計観測の柔軟性が大幅に向上する。(2) 変調器・復調器がデジタル化され、受信信号(複素時系列)の実部・虚部成分の直交性が完全になるなど、観測データの質が向上する。(3) 送受信機・アンテナ系の効率が向上するため、MUレーダー全体の感度が改善される。なお送信電波の偏波は右旋円偏波に固定される。(4) 送受信信号の周波数及びパルスの発射タイミングがGPS衛星に同期するようになるため、他の観測装置との同期運用の精度が飛躍的に高まる。(5) 周波数領域干渉計観測機能やRASS観測のための受信周波数微調機能がシステムの機能として実装される。新システムは平成16年度前期からMUレーダー観測共同利用(現在公募中、締切日は平成16年2月6日)に供するが、システム整備の関係上、利用に当っては担当者との事前協議をお願いしたい。新しい観測課題が提案されるよう期待している。(MUレーダーのホームページは、http://www.kurasc.kyoto-u.ac.jp/~mu)

久保田実(情通研) 「WAVE2004キャンペーンの紹介と地上観測の準備の現状報告」

来年(2004年)の1月に実施が予定されているロケット+地上共同観測実験 「大気光波状構造キャンペーン2004(WAVE2004)」の紹介、参加呼びかけ、並びに地上観測のラインナップ、準備の状況報告を 行った。WAVE2004はロケットからの大気波動鉛直構造観測、地上からの大気波動水平構造観測を同時に行い、大気光波状構造形成に関する理解を深めること、WAVE2000で明らかになってきた問題点を解 決することを目的としている。 ロケット打ち上げのウィンドウは2004年1月14日〜1月28日、2月13日〜2月27日を予定している。 本キャンペーンの概要、並びにメーリングリストの案内を以下のURLに掲載しているので、参照のこと。 

http://www2.nict.go.jp/dk/c216/imager/wave2004/

中村卓司(京大RASC)「TIMED衛星観測の状況」


NASAのTIMED(Thermosphere, Ionosphere Mesosphere Energy and Dynamics) 衛星は、2001年の12月に打ち上げられた衛星で、当初2年間のミッションで あったが、最近3年の延長が認められ、2006年末までのミッションとして 継続中である。4つの搭載測器のうちMTI領域の風速を計測する TIDI(ドップラー干渉計)および中層大気の組成や温度を計測する SABER(赤外分光計)がMLTダイナミクス研究上ではとくに興味が 持たれる。

SABERの温度データは、すでに供給され、成層圏から中間圏の ダイナミクスや大気波動の研究に用いられている。現在供給 されているものは、LTE(局所熱平衡)を仮定したリトリーバル で求めたもので、高緯度の高度80km以上では大気温度との 偏差が心配されているもの、中低緯度では問題ないようである。 データは、http://saber.larc.nasa.gov/
で公開されているが、現在のデータは、1日分でGB以上あるため 研究者は、夜中にダウンロードして必要な部分を抽出して使用する などデータ転送に苦労している。なお、ユタ州立大のMike Taylorら のMTM(中間圏温度マッパ)によるハワイでの観測でのSABER温度と OH, O2の大気光回転温度の観測比較では、半径500kmの範囲内 のオーバーパスでは通常2-3度以内の差で一致しており、非常によく 合っている印象がする。

一方、TIDIのデータは、測器の霜および迷光の問題でデータ品質が 悪かったが、2003年1月と4月の2回、測器を太陽に向けて結露を 取る操作(Bake out)が行われ、感度が向上した。20m/s程度の精度 (UARS衛星のHRDIと同程度とおもわれる)の風速の供給は近いと いわれている(http://timed.hao.ucar.edu/tidi)。

また、TIMED/GBと呼ばれる地上観測網ではレーダーのデータベース が(http://sisko.colorado.edu/TIMED)に作られており、登録することで 利用が可能になる。

打ち上げ後6ヶ月後にはデータ供給が始まると言われていたTIMED 衛星であったが、SABER, TIDIに関しては2年ほどしてようやく本格的な データ供給が始まったあるいは始まりつつあるという感じである。

藤原 均(東北大)「ロンドン大学 (University College London) 滞在報告」

2002年10月1日〜2003年9月30日の期間、文部科学省在外研究員(若手枠:申請時35歳以下)としてロンドン大学のカレッジの一つである University College London (UCL) に滞在いたしましたので、英国の様子などご報告いたします。

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懇親会

会場: たべどころのみどころ北の門(JR富山駅前)
日時: 平成15年10月31日(金) 18:00〜20:00

参加者数: 社会人15人、学生12人 計27人

収支;
収入   パーマネント 7,000円/人 × 12人 = 84,000円
      ポスドク    6,000円/人 x 3人 =  18,000円
      学生         3,600円/人 × 12人 = 43,200円
      ご寄付        3,000円/人 × 2人 =   6,000円 (小川先生、深尾先生) 
      計151,200円

 支出 飲食費 153,770円

     2,570円赤字でした。前回黒字分(7,012円)から補填し、4,442円を次回に持ち越します
 

以上、文責 石井 守 (情報通信研究機構) 

 


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